研究概要 |
我々は、レチノイドによる肝発癌抑制をテーマとして、一貫して研究を進めてきた。その臨床成績の詳細な検討により、非環式レチノイドがαフェト蛋白L3分画の産生を特徴とする特定のクローンを除去(clonal deletion)あるいは発生抑制(clonal inhibition)することを見出した(Clin Cancer Res3:727-731,1997)。これは、先に明らかにしていた培養細胞株でのレチノイドの作用機序(αフェト蛋白mRNA発現の抑制)が、実際ヒトでも起こったことを示す極めて重要な知見である。また根治療法後の二次肝癌の発生を有意に抑制できることを発表(N Engl J Med334:1561-1567,1996)し、臨床成績のさらに長期間の検討により、非環式レチノイドが二次肝癌の発生を抑制するのみならず、それにより患者の生命予後をも改善することを明らかにした(N Engl J Med,(in press)1998)。 その作用機序に関しては、非環式レチノイドの責任受容体である核レチノイドXレセプター(RXR)のプロセッシングに肝癌組織では変異を来していること(Mol Cell Endocrinol 121:179-190,1996)、変異の部位はAドメイン、Eドメイン各一カ所と考えられること(Biochem Biophys Res Commun 225:946-951,1996)を見出した。また分化誘導後のゆっくりしたアポトーシス(slow apoptosis)はカスパーゼを介して起こることも明らかにした。 これらの知見は、変異を来したRXRという分子を標的として、そのリガンドである非環式レチノイドを用いることにより、アポトーシスからすり抜けたガン細胞が再度分化してアポトーシスするようにするという、大きな発癌予防の戦略を支持するものとして、極めて重要である。
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