研究概要 |
消化管のなかでも小腸の粘膜は増殖の盛んな器官であり粘膜上皮は数日間で入れ替わる.増殖機構についてはさまざまな角度から検討され各種の増殖因子の関与があきらかになっている.小腸粘膜のような増殖の盛んな臓器においては小腸粘膜の統合性の維持のためには増殖と同時に細胞の定常的な死が不可欠である.我々は以前より小腸粘膜の増殖に中枢神経系が関与していることを解明してきたが,本実験ではさらに小腸粘膜のアポトーシスへの中枢神経系の関与を食行動との関連から明確にした.24時間絶食のラットの小腸粘膜で広範囲にアポトーシスが生じていた.自由摂食ラットではアポトーシスは摂食時期を低値とする日内リズムを有しており小腸の増殖と関連深いオルニチン脱炭酸酵素とは鏡面的に変動していた.摂食行動開始直前に上昇する十二指腸のオルニチン脱炭酸酵素活性が迷走神経離断で認めらなくなった.ラット第3脳室内に2-deoxy-D-glucose(2-DG)を投与すると食行動を誘発するが,この時に小腸のオルニチン脱炭酸酵素活性は上昇し,%fragmented DNAは低下傾向を示しアポトーシスの割合は減少するという逆相関を示した.中枢神経系,特に視床下部のの諸核への2-DG微量注入実験では,視床下部外側野への投与で同様に小腸粘膜のオルニチン脱炭酸酵素活性上昇と%fragmented DNAの低下傾向の実験結果を得た.以上の結果は,中枢神経系が小腸粘膜の統合性の維持のために粘膜の増殖だけでなくアポトーシスの調節をおこなっていることを示唆するものであった.
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