研究概要 |
重篤なアルコール性肝障害の発症の遺伝的背景として、サイトカイン遺伝子多型の意義を明らかにした。 (1)IL-1 receptor antagonist(IL-1 Ra)遺伝子多型:日本人におけるIL-1 Ra遺伝子多型の頻度は、A1/A1型が95.7%を占め既に報告されている欧米の54%と比較して有意に高率であった。アルコール性肝障害におけるA1/A1以外のhetero型は、線維化群10例(14.9%)、非線維化群1例(2.9%)と線維化群で高い傾向を認め、線維化群における積算飲酒量もhetero型が他群より有意に少なかった。(2)TNF遺伝子多型:TNFα遺伝子多型はプロモーター領域の変異多型(site-308,-238:両方G→A)をPCR-RFLP(制限酵素NcoI,MspI)にて、TNFβ遺伝子多型はイントロン1の多型部位をPCR-RFLP(NcoI)で同定し、各病型の頻度について比較検討した。日本人の大酒家および健常者例ではTNFα遺伝子多型は全く認められず、欧米の既報告と比べ著しい人種差が認められた。さらに各病型におけるTNFβ遺伝子多型の頻度(+/+,+/-,-/-)は、非線維化群(11.4%,51.4%,37.2%)、線維化群(9.0,58.2,32.8)、アルコール性肝炎(25.0,62.5,12.5)、健常者(19.6,45.6,34.8)であり各病型との関連は認められなかった。 (3)IL-1β遺伝子多型:Il-1β遺伝子多型は上流域-511部位およびExon5の変異多型をPCR-RFLP(AvaI,TaqI)にて各々遺伝子型を同定した。Exon5のIL-1β遺伝子多型については、(80.0%,20.0%,0.0%),(97.0,3.0,0.0),(83.3,16.7,0.0),(91.3,8.7,0.0)と既報告と比べ著しい人種差を認め、また-511部位の多型については(37.1,51.4,11.5),(28.4,59.7,11.9),(25.0,50.0,25.0),(30.4,47.8,21.8)であり、いずれも病型間での関連は認められなかった。以上の結果からTNFとIL-1遺伝子多型は、本邦における重篤なアルコール性肝障害の遺伝的risk factorとしては関与せず、IL-1Ra遺伝子多型が関与する可能性が考えられた。
|