研究概要 |
SLPI(secretory leukoprotease inhibitor)は分子サイズが約12kDのセリンプロテアーゼで,気道のほか,子宮頚管,精嚢,唾液腺などで局所的に生産・分泌され,炎症時に放出される好中球エラスターゼの活性を制御する機能をもつ。このたんぱく質の合成には細胞特異性(cell-type specificity)が認められるため,その遺伝子発現の制御機構にはcell-type specificityを規定するメカニズムが必ず含まれているはずであり,本研究の目的はそれが転写レベルでの調節機構として存在するかどうかを明らかにすることであつた。 本研究ではヒト由来の培養細胞を用い,以下の手法によって最終的にSLPI遺伝子のcell-type specificな転写活性をになうシスエレメントと,それに相互作用をもつ核たんぱく質(転写因子と推定される)の存在を明らかにした。 ■ノーザンブロットでSLPI遺伝子を発現する細胞としない細胞を分類した。 ■SLPI遺伝子を発現する細胞のクロマチンを使ってSLPI遺伝子のプロモーター領域のDNase I hypersensitive sitesをマップし,cell-type specificな転写活性に関与するDNA配列の存在を示唆した。 ■レポーター遺伝子法によって上記DNA配列のうち,実際に機能するもの(シスエレメント)が含まれる領域をそれぞれの細胞で同定した。 ■ゲルシフト法を用い,上記シスエレメントを含む領域に結合する少なくとも2種類の核たんぱく質が存在することを明らかにした。そして,この2種類のたんぱく質の競合によってcell-type specificな転写調節が行われている可能性か示唆された。 気道における転写調節機構の解明は,導入遺伝子のtissue-specificな発現制御という遺伝子治療における実用的な意義をもつにとどまらない。サーファクタントたんぱくの転写調節の研究からは肺組織の転写因子が肺の発生・分化機構に関わる知見も得られており,SLPIの転写調節をになう転写因子のクローニングが待たれる。
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