研究概要 |
75例の肺腺癌を含む非小細胞肺癌123例の手術摘出の癌抑制遺伝子p53の初期反応遺伝子群の異常を検出するために、p53の標的遺伝子であるp21Waf1/Cip1(以下p21)とMDM2の発現を、免疫組織染色にて病理組織学的に検討し、また、これらの因子の発現率と臨床経過を中心に比較した。また、その結果に基づき、各症例の腫瘍内におけるp53(Dako,Do7)、p21(Oncogene Science)、Mdm2(Oncogene Science)の免疫組織の腫瘍細胞内の発現分布を詳細に比較検討した。さらに、p53,p21、およびGADD45の遺伝子変異の有無をSSCP-PCR法を用いて検出を試み、以下に掲げるような結果が得られた。 (1)MDM2の発現はp53の発現と相関関係にあるものの(p2=0.013)、p53蛋白陽性を示した44例のうち13例がMDM2陽性であることは、p53変異蛋白がこれらの腫瘍内においてMDM2の発現を誘発している可能性を示唆した。 (2)p21とp53の過剰発現に関しては、相関関係は見られず互いに独立していたが、p21の遺伝子変異は確認されず、p21の過剰発現が遺伝子変異によらないことが示された。 (3)p53のもう一つの標的遺伝子として知られるGADD45の、p53のbinding siteの遺伝子変異の存在を検索したが、遺伝子異常は検出されず、p53の過剰発現がGADD45への結合に因るものではないことが示された。 これらの結果から、p53の初期反応遺伝子群の異常による野生型p53の発現増強の可能性は少ないことが推察された。また、本研究の結果から腫瘍内における癌細胞のclonalityの問題が提起され、肺腺扁平上皮癌を対象とし、p53およびp21を中心とした分子病理学的検討を開始している。
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