研究概要 |
私達は,MUC1に属するKL-6(以下,これをKL-6/MUC1と呼ぶ)に対して,ヒト血清中に自己抗体が存在することを見出した.本研究の目的は,この抗KL-6/MUC1抗体の臨床的意義を検討することにある. 対象は,当科に入院し加療したPS(0,1,2)の進行期非小細胞肺癌患者30例[臨床病期IIIB(9例),IV(21例)]である.対象患者と年齢分布を合致させた健常者60例をコントロール群とした. 健常者の抗KL-6/MUC1抗体価は,108±25.6(平均値±SD)U/ml,肺癌患者は32±13U/mlであった.肺癌患者を高抗KL-6/MUC1抗体価群と抵抗KL-6/MUC1抗体価群に分類した.その境界値は,平均値-3SD値である32U/mlとした.32U/ml以上を呈した高抗KL-6/MUC1抗体価群の生存期間は,抵抗KL-6/MUC1抗体価群に比べ有意に長かった. 本研究によって,血清中の抗KL-6/MUC1抗体価は進行期非小細胞肺癌患者の予後因子として高い価値を有していることが明らかになった.また,非小細胞肺癌患者においては,KL-6/MUClに対する血清中の自己抗体が抗腫瘍性に働く可能性が高いと考えられた.また,この結果は,私達が以前に報告した抗KL-6マウスモノクローナル抗体がヒト癌細胞株に対して増殖抑制的に作用するという結果と整合性があり,今後の癌治療を考える重要な方向付けとなる可能を示している.すなわち,抗KL-6/MUC1抗体価の低下している患者に対して,ヒト型の抗KL-6/MUC1抗体を投与することにより,予後を改善する可能性があるかどうか検討する必要がある.
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