研究概要 |
表記課題につき,概略的には以下の結果を得た. (1) 脱上皮ラット気管を用いたヒト気道上皮細胞による再上皮化グラフトを用いての検索では,市販のin vitroにて継代された上皮細胞を用いた場合,当初,扁平な分化の悪い細胞よりなる上皮が形成されるのみであったが,継代回数を調整することなどにより,線毛円柱上皮の形成がみられるようになった.ただ,目下のところエラスターゼ投与刺激で明らかな形態学的変化は認めていない.エラスターゼ単独ではなく,今までに家兎気道上皮で報告してきたように,カテプシンGの併用投与を考慮する必要性も考えられた.一方,Primaryのヒト気管支上皮細胞を用いた場合,通常mucociliary epitheliumの形成がみられるが,今回の実験ではおそらく感染による技術的問題でグラフトの上皮化は得られなかった.これらの点を引き続き検討する予定であるが,新鮮細胞の場合,回収できる細胞に限界があり,再現性を得る実験を繰り返しおこないにくい欠点があると思われた. (2) 各種非腫瘍性肺疾患における,SLPIに関する免疫組織化学的検索では,今までと同様に,気管支腺漿液細胞,気管支表面上皮粘液細胞に陽性像が認められた.急性・慢性炎症と直接的に関連するというよりも,粘液細胞過形成部で強く見られた.即ち,粘液細胞過形成部では,SLPIの産生や分泌亢進が粘液の過分泌とともに生じていることが容易に推測された.好中球エラスターゼは粘液細胞過形成を引き起こす.一方SLPIは,好中球エラスターゼなどの蛋白分解酵素に拮抗する作用を有することが知られている.このことからもわかるように,この現象は,生体内におけるプロテアーゼ・アンチプロテアーゼのバランスを保つように働く生体の合目的反応とみなすことができると思われた.
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