研究概要 |
びまん性汎細気管支炎(DPB)は,かつては難治性の緑膿菌感染症と呼吸不全のため予後不良の疾患であったが,1980年代にマクロライド系抗生物質の少量持続投与が有用であることが判明し,予後は飛躍的に改善された.しかし,現在でもDPBの発症機序は不明であり,またマクロライドの奏効する機序も十分には解明されていない.本研究では,気管上皮の炎症や生体防御機構におけるマクロライドの関与を分子生物学的に解明するため,気道上皮細胞での遺伝子発現をdifferential display(DD)および逆転写(RT)-PCR法を用い解析した.平成8年度には,ヒト肺扁平上皮癌由来のHS-24細胞を,対照,エリスロマイシン(EM)添加,TNF-α添加,EM+TNF-α添加の計4群に分け24時間培養後RNAを抽出,DDを行ない発現に差異の認められたmRNAの塩基配列を解析した.DDによる解析では,炎症性刺激の無い状態でEMは遺伝子発現の増強作用を持つことと,炎症性刺激下でEMは遺伝子発現に増強ないし減弱の双方の作用を持つことが示された.発現に差を認めた遺伝子の1つはhuman 28S ribosomal RNAに高い相同性を示し,EMが蛋白合成阻害作用に関与している可能性が示唆された.平成9年度には,上記同様の培養条件で得られたRNAをRT後,生体防御や炎症に深く関与するdefensinのうち,気道由来のβ-defensin(hBD-1)に特異的なprimer対を用いPCR増幅を行い,発現の強度を検討した.RT-PCRによる解析ではhBD-1の発現がEMの添加により炎症性刺激の有無に関わらず低下することが示された.hBD-1は広範な殺菌能とともに細胞障害性をも合わせ持ち,生体防御に基本的かつ初期的な段階で関る分子であるため,気道上皮の防御機構にマクロライドが関与する作用機転の一つの有力な候補と考えられる.
|