悪性胸膜中皮腫の臨床病期分類設定に関して検討し下記の結果をえた。 (1)本邦でよく用いられるButchart分類で画像診断すると、初発時の悪性胸膜中皮腫の80%の症例が臨床病期がI期となり、切除成績不良の症例まで外科治療の対象に含める結果につながった。これはI期の腫瘍進展範囲を広く設定し過ぎているためでありButchart I期の細分の必要性が示された。 (2)Butchart I期を細分するために、胸腔鏡所見および画像所見により「同側壁側胸膜に腫瘍が限局し臓側胸膜に腫瘍を認めない症例」と「臓側胸膜にも散布性腫瘍を認める症例」の切除後の生存期間を比較した。その結果、前者が後者の約2倍であり、またこれは心膜浸潤、縦隔浸潤および胸壁浸潤のある非切除・多剤併用化学療法実施症例より有意に長かった。この結果から中皮腫病期設定には「壁側胸膜に限局する腫瘍」に意義を持たせることが必要であると考えられた。 (3)限局型悪性胸膜中皮腫は症例数が限られているが、今回対象とした臓側発生限局型悪性胸膜中皮腫の切除成績が良好であったため、びまん型とは異なる設定が必要と考えられた。 (4)肺癌のT規定因子に腫瘍径がある。中皮腫は肺癌の原発巣で見られる様な局所発育はなく、胸膜全体をびまん性に広がり発育進展する。術式の基本は胸膜肺全摘であり、腫瘍径による病期分類に臨床的意義は少なく、病期分類に腫瘍径を含める必要はないと考えられた。 (5)横隔膜筋層浸潤の診断はMRIで可能であり、筋層と横隔膜直下脂肪織の不整がその特徴であった。これは切除標本肉眼像とほぼ一致していた。筋層浸潤(-)例は(+)例よりも生存期間はやや長かった。現在、N因子について検討中であり、これらの成績からTNM分類案の作製を行っているところである。
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