研究概要 |
ドパミン(DA),L-DOPA,神経毒6-ヒドロキシドパミン(6-OHDA)(以下総称としてDA系化合物)による神経細胞傷害の分子機構違いを明らかにすることによってParkinson病における緩徐進行性の神経変性の抑制への手がかりを得ることを目的として研究を行い,以下の結果を得た. 1. 鉄と過酸化水素によるDNA損傷はDAやL-DOPAによって著しく促進した.亜鉛単独ではDNA損傷を惹起しないが,6-OHDAが共存するとDNA損傷を惹起した.アルミニウムによるDNA損傷はDA系化合物によって阻止されるので,他の遷移金属と機序が異なっている. 2. 鉄による水酸化ラジカル(HO・)生成は,DAとL-DOPAで影響されないが,6-OHDAで著明に増加した.一方,銅による著明なHO・生成はDA系化合物によって抑制された. 3. 鉄による脂質過酸化をDAは軽度抑制したが,L-DOPA,6-OHDAは影響しなかった.一方,銅にDA,L-DOPAあるいは6-OHDAを加えた場合には,脂質過酸化は著明に抑制された. 4. DA系培養神経細胞(B65)には遷移金属,ことに銅が顕著な毒性を示した.また,DA系化合物も濃度依存的に細胞生存率が減少させたが,特に6-OHDAの毒性が高かった. 5. B65細胞において,遷移金属,6-OHDAはスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)活性を強く上昇させたが,L-DOPAによるSOD活性の上昇は緩やかだった.一方,グルタチオン(GSH)活性は鉄,銅添加でやや減少したが,DA系化合物(特にDA,6-OHDA)で増加した. 以上のように,DA,L-DOPA,6-OHDAは微量遷移金属,生体内での過酸化水素発生量,酸化還元状態との相互反応によってそれぞれ固有の機序によって細胞傷害性を示すことを実験的に明らかにした.これらの知見はParkinson病の神経保護療法の開発に貢献する成果だと考えられる.
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