研究概要 |
Krabbe病(GLD)ではリソゾーム酵素であるGalactosyl-ceramidase(GALC)の欠損により異常ミエリンの形成が起き,その結果中枢神経及び末梢神経に障害が起きる。Krabbe病の多くは乳幼児型であるが,長期の経過をとって歩行障害が徐々に進行する成人型も報告されており,その差が何故生じるのか興味を持たれている。この疾患に対して最終的には遺伝子治療を行うことを目的として,成人型GLDのGALC遺伝子上の変異を同定し,それが酵素蛋白の発現とプロセッシングに及ぼす影響に関して検討するとともに遺伝子治療用ベクターの開発を行った。 1.研究対象・方法 (1)日本人成人型GLD5例のGALC遺伝子を解析してGALC遺伝子上の変異を調べた。(2)検出したアミノ酸変異を導入した全GALCcDNAやサブユニットに相当する部分のcDNA発現ベクターに組み込みGALC蛋白の発現やプロセッシングを評価した。(3)GALC遺伝子を安定発現させたCHO細胞を樹立してGALCプロセッシングに対する影響を検討した。(4)野生型GALC遺伝子をレトロヴィールスベクター(RV)およびアデノ関連ビールススベクター(AAV)に導入して遺伝子治療を目的とした発現系を作製した。 2.結論 (1)日本人成人型GLD5例のGALC遺伝子を解析して6種類の変異を検出した。(2)変異GALCの発現実験では,ウェスタンブロッティングで野生型の培養上清中ではその殆どが80kDaであるのに対して,細胞内では殆どが50kDaと30kDaであった。しかしながら50kDaと30kDaは別個に発現させて混合しても酵素活性は全く認められなかった。(3)マンノース6ーリン酸により80kDaGALCの細胞内取り込みは阻害され,NH4Cl,クロロキンによりサブユニットへの蛋白プロセッシングが阻害された。(4)現在RVでゃGALC活性の高いクローンの選択を,AAVでは感染効率を上げる改良を試みている。 3.考案 成人型の変異の位置をこれまでに報告されている乳幼児型のそれと比較してみると,比較的GALCのN末端とC末端に集まる傾向が認められ,アミノ酸変異の場所により臨床症状の差異が生じることも予想された。アミノ酸変異によってはGALC活性のみならず蛋白の発現量自体も低下していること,GALCはリソゾーム内でプロセッシングを受けることが予想された。今後これらの成果を遺伝子治療に応用して行く予定である。
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