研究概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の大脳皮質運動野とくにBetz巨細胞におけるシナプスの変化を検索した。対照例の大脳皮質運動野を剖検時に切り出し、半分をホルマリンに固定し、パラフィンに包埋した後、各種染色を施し光顕で観察した。免疫組織学的には抗synaptophysin(SP)抗体を用いABC法にて可視化した。残りの各々半分は電顕用に2%グルタールアルデハイドで固定、型の如く処理した後、エポンに包埋した。薄切切片にトルイジンブルー染色を施し、光顕でBetz巨細胞を確認した後、超薄切片を作り電顕で観察した。まず、Betz巨細胞を倍率1,400で写真にとり、胞体表面に存在する個々のシナプスをさらに倍率8,000で写真にとって、その超微細構造を明らかにするとともに、Kontron computer解析装置を用いて、個々のシナプスの全長およびactive zone(AZ)の長さを測定した。ALS症例で一見正常と思われるBetz巨細胞の胞体表面のシナプスの変化について、対照例と同様の方法で検索した。SP活性は対照例の大脳皮質運動野でび慢性にみとめられ、大脳皮質運動野の神経細胞の脱落が高度なALS症例では、当該部位のSP活性が減少していた。対照例では、Betz巨細胞の面積が大きくなるにつれてその表面でみられるシナプスの数も増加した。Bets巨細胞の面積およびシナプスの数については両者間で有意差は認められなかった。ALS症例では個々のシナプスの全長は対照例に比較して減少していたが、個々のシナプスのAZの長さはむしろ増加していた。以上の所見は、ALSではBetz巨細胞の変性過程においてその表面に存在するシナプスに可塑性あるいは代償機転が働いていることを示唆している。
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