研究概要 |
ヒトが視覚刺激を受けてからどのような脳内過程を経て運動が遂行されるかを脳磁図を用いて研究した.視覚系では,色,形,運動などは別々の機能系で情報処理が行われていると考えられている.脳磁図がこのような機能系に対応する反応を測定できるかが我々の研究の出発点であった.視覚刺激として色の変化と仮現運動を用いて,脳磁図反応を記録した.色変化では約200msの潜時で紡錘状回付近から,また仮現運動刺激では約150msの潜時で側頭-後頭葉移行部外側からと推定される反応が記録された.この結果は米国神経科学学会にて発表した.また仮現運動に反応する脳部位はヒト運動視中枢付近と考えられ,これはNeuroreport(1997)に発表した.次に,この仮現運動刺激に応じてヒトが運動(ボタン押し)をするとき,脳磁場で記録された反応潜時と運動開始時間との関係を調べた.我々の使用した仮現運動刺激では,約150msをその視覚情報処理に,また約64msが運動開始に必要とされることがわかった.また視覚情報処理には30msほどの個人差があったが,運動開始に費やされる時間に個人差は認めなかった.この結果は,Brain Research(1998)に発表した.次に興味深い問題は,視覚系が情報処理を行うとき,その結果は脳の神経活動に反映されるか,もしそうなら視覚認知の程度が変化したときそれに応じて運動開始は変化するかである.仮現運動刺激では二つの光を使うが,この光の点滅の時間差を変えることにより,自覚する運動の滑らかさを変えることができる.我々は運動視中枢からと思われる脳磁場反応の強度が,自覚する視覚性運動の質と比例して変化することを突き止めた.この結果はJournal of Neuroscienceに投稿中である.
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