研究概要 |
慢性拒絶による冠動脈硬化の免疫分子学的病態の解明と治療法を開発するために、小動物心移植モデルを作成し経時的に病変の進展を解析した。細胞接着分子、サイトカイン、増殖因子、平滑筋収縮蛋白、細胞周期調節遺伝子の組織内発現を免疫染色とin situ RT-PCR法により確認し、さらに発症阻止実験として、細胞接着分子に対する抗体の効果を検討した。 マウスではBALB/cからC3H/Heに、ラットではLEWからF344に異所性心臓移植を行い、FK506を連日投与して慢性拒絶モデルを作成した。移植心を術後3日より60日に摘出し、拒絶の程度と冠動脈内膜肥厚を評価した。また、免疫染色とin situ RT-PCR法により、PDGF,ICAM-1,VCAM-1,SM1,SM2,SMemb,CDK2 kinase等の発現を検討した。 慢性拒絶心の心筋内小冠動脈の肥厚内膜で、in situ RT-PCR法にて、VCAM-1,ICAM-1,PDGF-B,SMemb,cdc2 kinase mRNAの発現増強を認めた。非拒絶心ではこれらの発現は認められなかった。平滑筋細胞のSMemb mRNAの発現増強とSM2(分化型)の発現減弱は、内膜肥厚に先行して認められ、血管平滑筋増殖の早期変化を捉えているものと考えられた。移植直後より抗ICAM-1抗体と抗LFA-1抗体を投与して、免疫寛容を誘導したマウスでは、ICAM-1、VCAM-1の血管内皮上での発現増強がなく、また内膜肥厚は認められなかった。cdc2 kinaseの発現増強はantisense oligonuleotideによる遺伝子治療の可能性を示すものであり、今後の実験的検討が必要である。さらにこの成果をふまえて、ニホンザルの心移植の系を用いてさらに臨床応用に近づけていく予定である。
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