研究概要 |
原発性および二次性肺高血圧症はともに難治性の重篤な疾患であり,未だ有効な治療法は確立されていない。また、その病態生理についても十分解明されていないが,最近,肺高血圧症患者の肺血管床において強力な血管弛緩性因子である一酸化窒素(NO)の産生低下が報告されており,病態への関与が推測されている。さらに,NOの吸入療法が肺高血圧の軽減に有効であることが明らかにされ,臨床応用が試みられている。近年の分子生物学のめざましい進歩により,ADA欠損症を始め各種難治性疾患の遺伝子治療が現実となってきている。今回,我々は,肺動脈へのNO合成酵素遺伝子導入による肺高血圧症に新しい治療法の開発を目指す。 平成9年度は科学研究費補助金(基盤研究C)の助成を受け、以下のような新知見が得られた。 1.心筋および血管平滑筋細胞においては誘導型NO合成酵素が存在し、その発現は種々の神経内分泌因子により制御される。 2.AAVベクターはラット培養血管平滑筋細胞および摘出大動脈へ高率に遺伝子導入が可能であり、発現は長時間持続する。 3.NO合成酵素発現AAVベクターを摘出大動脈へ遺伝子導入することにより、血管拡張性が亢進する。 以上の研究を通じて、AAVベクターを用いたNO合成酵素の遺伝子導入が、肺高血圧症の新しい治療法として有用である可能性が明らかとなった。
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