研究概要 |
悪性疾患やステロイド内服中の患児,高齢者では帯状疱疹の発症率は高く,その原因は特異細胞性免疫の低下と関連していると考えられている。しかし,水痘の臨床的な再感染を経験することは非常にまれで,その原因は不明である。私どもは,その機序を特異細胞性免疫が低下しても局所免疫が保たれているためではないかと推論して,唾液中の分泌型IgA抗体を測定した。 水痘既往のある悪性疾患やステロイド内服中の患児から早朝朝食前の唾液を採取し,indirect fluorescent assayで測定した。その方法は簡単に述べると,採取後ただちに56℃30分温浴後,4℃180Gで30分遠沈した。その上清を4℃48時間透析後凍結乾燥し,測定まで-20℃で保存した。 VZV感染Vero細胞塗抹固定スライドに2段階希釈した検体を滴下インキュベートした後,FITC標識抗ヒト分泌型IgA抗体を滴下インキュベート後,蛍光顕微鏡で判定した。 悪性疾患やステロイド内服中の患児,健康小児ともに分泌型VZV特異IgA抗体価は512倍以上と高く,両群間に有意差を認めなかったが,悪性疾患やステロイド内服中の患児でやや低い傾向を認めた。一方,血清中のVZV特異IgA抗体価は有意に悪性疾患やステロイド内服中の患児で低い傾向を認めた。 帯状疱疹は潜伏感染したVZVの再活性化であり,水痘の再感染は体外からのVZVの侵入によって発症する。悪性疾患やステロイド内服中の患児は特異細胞性免疫が低下しているためVZVが活性化し帯状疱疹を発症しやすいが,局所免疫である分泌型IgA抗体は低下していないため体外からのVZVを抑制して水痘再感染を防止していると示唆された。
|