研究概要 |
遺伝性皮膚疾患である汗孔角化症には皮膚癌が続発するが,現時点でこの皮膚癌続発の分子機構は不明である.この発癌機構の一端を知る目的で,病変部における癌抑制遺伝子p53の発現を調べたところ,汗孔角化症患者10例中9例の病変部表皮でp53の過剰発現が認められた.p53過剰発現の機序には,(1)p53遺伝子突然変異によるp53蛋白の半減期延長(2)DNA損傷などによる正常p53蛋白の誘導などが考えられるが,いずれにしてもp53過剰発現と皮膚癌続発に何らかの関係が示唆されていた. p53過剰発現の機序を知るため,まず汗孔角化症病変部におけるp53遺伝子変異の有無について検討した.これまでに報告されたp53遺伝子変異のほとんどはエクソン5-10に存在しているため本研究でもPCR-SSCP法を用いてエクソン5-10をスクリーニングした.9症例から得られた17標本(うち14標本でp53過剰発現があり)のいずれにもp53変異は検出できなかった.一方,この9症例中2例に発生した有棘細胞癌(1例は多発)6標本中2標本にp53変異がみつかった.この結果より,汗孔角化症病変部のp53過剰発現は遺伝子変異が原因ではなく,なんらかの機序により正常蛋白が誘導されている可能性が強く示唆された.また,p53変異は汗孔角化症から皮膚癌へのconversionに関与していると考えられた. 次に,汗孔角化症患者(癌が多発した1例)の無疹部由来の表皮細胞は正常人由来のものと同じように5〜6代程度継代可能であったが,病変部よりの表皮細胞は継代1代目で分裂しなくなった.これは,正常p53蛋白の過剰発現により病変部表皮細胞はアポトーシスに陥り易くなっている可能性が示唆された.そしてこのアポトーシスへの経路が何らかの理由により障害されたとき癌化が起こるのではないかと推測される.
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