研究概要 |
マウス肺の放射線照射によって引き起こされる肺臓炎、間質性肺炎の予防に対して外因性肝細胞増殖因子(ヒト組換え型HGF)の投与効果があるかどうかを調べた。25および30Gy照射群(C57Bl/6Jマウス、麻酔下)では照射後1カ月以降有意な体重減少がみられた。30Gyの肺局所照射を受けたマウスに対して、HGF(1μg/マウス/日、照射後10日目から投与)の静注4日関連日投与は、被照射マウスの6ヶ月間死亡率を抑制する傾向を示した。しかし、肺臓の組織学的変化を指標にした場合には、肺肪構造の破壊や肺線維化の予防および改善について明確なHGFの投与効果を示すことができなかった。C3H/HeN(15Gy)では、HGF投与(6日間)の有無によらず、照射後240日間全てのマウスが生存した。麻酔下での照射が肺臓炎、間質性肺炎を抑制したためかもしれない。また、照射後10ヶ月での肺臓内コラーゲン量は0Gy,15Gy,30Gyおよび30Gy+HGFの4群間で有意差は無かった。HGFは早期肺臓炎の予防に効果があるのかもしれない。 マウス(ICR)の肺臓、肝臓および腎臓では、放射線の照射によって臓器内の内因性HGFタンパク質の増加が誘導されることが見いだされた。HGFタンパク量の照射後の経時的変化動態は、臓器の種類および線量に依存する。例えば、2Gy全身照射では肺臓でのみ72時間目にHGFタンパク量が増加した。一方、30Gy照射では肝臓と腎臓では12時間目に一過性にHGFタンパク量の増加を認め、48時間以降再度増加した。また、局所照射を受けた肺臓では、肺組織内のHGFタンパクと共に、c-met mRNA量が照射後一過性に増加することが示された。放射線障害が引き金になって、HGFタンパク量およびHGF受容体数が増加し、その結果、肺細胞の増殖および運動性等が促進される可能性を示唆する。放射線障害組織の修復にHGFが関与していることを想像させる。
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