研究概要 |
精神分裂病(以下分裂病と略す)患者にみられる多彩な精神症状のうちで,注意障害は比較的高頻度に認められ,生活上の困難さを惹起する重要な症状である.一方,分裂病における注意障害の実態は明らかにされていない。また,これまで分裂病における認知障害は意識的処理過程に比較的限定されて考えられてきたのに対して,自動的処理過程あるいは前意識的過程においても障害が認められる可能性が示唆されるようになってきた.そこで,精神生理学的手法の1つである事象関連電位(ERP)を用いて,自動的処理と意識的処理過程を反映する成分などを用いて,精神分裂病患者の注意障害について様々な角度から検討を試みた。ERP課題には選択的注意課題を用いてMMN,Nd,N2b,N1成分の振幅をそれぞれ計測し,解析に用いた。その結果,いくつかの興味深い知見が得られた。 1) 精神分裂病患者はMMN,N2bともに振幅の減衰が認められ,とくにN2bでその差は顕著であった。 2) 精神分裂病患者は,意識的処理過程に比して,自動的処理過程に依存する傾向が示唆された。 3) 精神分裂病患者の生活技能(social skills)はN1振幅および右耳刺激に対する課題遂行成績やN2b振幅との間に関連が認められ,覚性(vigillance),左半球における意識的な刺激検出機能との関連性が示唆された。 4) 健常者における多チャンネル脳波を用いたSCD mappingから,MMN成分が両則側頭部のほかに,右前頭部,右頭頂部に電流の吸い込み口が認められ,先行研究と一致し,音刺激に関する自動的処理に右半球の活動が重要な役割を果たすことが示唆された。
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