近年の高齢化や医学情報の氾濫によって、身体に対する不安が高まりますます身体に注意を向けるという悪循環が形成され、心理社会的ストレス因が身体的問題に変換されやすくなっている。この変換(身体化)が多数の「治療困難な身体疾患」患者を出現させ、頻回の検査や過剰な治療によって医療経済学的にも大きな問題を生じている。そこで身体化の社会的・家族的・心理的背景因子を明らかにするため調査を行った。 精神科神経科、心療内科、一般内科を受診した247名(男69、女178;年齢18〜85歳)の外来患者が最近1ヵ月間の身体的な自覚症状を「症状リスト」から選択し、主治医が各症状について身体的および心理的要因の関与する程度を判定した結果から、全患者を症状のない「無症群」、心理的要因の優勢な「心理群」、身体的要因の優勢な「身体群」、いずれの要因が優勢ともいえない「混合群」に分類した。 主な結果は次の通りであった。(1)身体化患者は全体の37%で、女性は男性の3.6倍であった。身体化患者の割合は精神科神経科で最大(74%)であったが、内科でも12%に認めた。(2)症状評価期間が1ヵ月でも、慢性的に経過しやすい身体化症状を特定することは可能であった。(3)身体化患者は「病弱で、精神障害を嫌悪する、祖父母のいる」生育環境で育ち、「運動を熱心にするが、交友や健康には無関心で、身体の成長も遅れがちな」学校時代を過ごし、現状では「趣味や娯楽は少なく、気心知れた話し相手もほなく、運動もおろそかになり、環境や健康に関心も乏しく、安定剤や睡眠剤を常用している。」また、「凡帳面・完全主義、心配性で悲観したり孤独に落ち込みやすい」性格傾向をもち、体の健康についても「体調の年齢変化すら気にし、病気がちと思い込み、医師から異常がないといわれても不安で、病気のことばかりが気になる。」という特徴であった。
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