研究概要 |
ヒトI型糖尿病は膵β細胞に対する自己免疫反応によって起こると考えられる。I型糖尿病にはNODマウスという優れた疾患モデル動物が存在する。これまでの研究から、膵β細胞に対する自己免疫反応に直接関係しているのは、限られたレパートリーのT細胞受容体(TCR)をもつTリンパ球であるという可能性が示唆されている。さまざまな方法で、TCRのVαとVβのレパートリが解析されてきたが、特定のVαとVβが関与するという証拠は得られていない。もう1つの問題は、それらがどの程度の数のクローンから構成されるか、各クローンは膵臓の1箇所に留まるのか、膵臓全体に広がって行くのかといった問題である。最近、各TCRβ鎖mRNAをVβサブファミリー特異的プライマーとCβの共通プライマーを用いてRT-PCR法で増幅し、SSCPにより解析する手法が開発された。この方法では各T細胞クローンは、TCRβ鎖のDNA配列の違い(D,J,N配列挿入)によるSSCPゲル上のバンドの易動度の違いとして区別される。本研究では、このPCR-SSCP法を用いて、NODマウスの週齢や膵臓の部位によるTリンパ球のクローナリティーの変化などを多くの個体について解析した。その結果、膵島に浸潤するT細胞のクローンはoligoclonalであり、特定のVβサブファミリーのみが関与しているとは考えられないこと、膵島炎の進展とともにクローンの数も増大し、20週齢以降では膵臓全体に共通のT細胞クローンが優位になることが示された。NODマウスでは唾液腺炎が起こることも知られているが、膵島炎を起こすT細胞の共通クローンの一部が唾液腺にも浸潤していることが示された。この手法により、浸潤しているTリンパ球クローンの動的変化と他の組織での活動が初めて示されるとともに、それらの認識する自己抗原が唾液腺にも存在するものであることが示唆された。
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