研究概要 |
オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症患者の中には思春期以降はじめて発症する症例があるが、本研究期間中にもOTC遺伝子の40番目のアミノ酸のアルギニンがヒスチジンに変化するR40H変異を有する症例を3例経験した。このなかの一症例は、PCR-RFLP法による遺伝子診断では、肝ではR40Hパターンを示していたものの。線維芽細胞、や皮膚組織では、極一部がR40Hパターンで、ほとんどは正常の遺伝子であった。これらのことにより、この症例は、発生段階の体細胞レベルで、正常遺伝子からR40H変異を引き起こした可能性が考えられる。このR40H変異はCpG islandに位置し、比較的変異が起きやすいことや、発症年齢が遅いことが、R40H変異が世界中で多く認められる理由となっている可能性が考えられた。 これまで成人発症のOTC欠損症にはR40H、Y55D変異が認められることを報告しているが、これには翻訳後のメカニズムが関与していることを明かにしている。本研究ではR40H,あるいはY55D変異を導入した、あるいはしていない野生型cDNAを用いて発現実験をおこなったところ,OTC活性はcDNAを挿入していないものでは67±23.5(nmol/min/mi),野生型では1955±140であるのに対し,R40H変異では670±130,Y55D変異では627±124と低下していた(n=3)、補正したOTC活性はR40H、Y55Dでは野生型のそれぞれ、28%,と26%に低下していた。活性低下の原因として、翻訳後のメカニズムの関与が想定されるので、細胞調製液を5回凍結融解をくり返し、再びOTC活性を測定したところ、Y55D変異蛋白には変化が認められなかったが、R40H変異蛋白は野生型に比べ凍結融解前の約6%に活性が低下した。これらより、R40H変異に関しては、翻訳後、特に蛋白質の不安定性が活性低下の原因となっていることが考えられた。
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