研究概要 |
悪性眼球突出症は、臨床的に外眼筋の腫大、眼球運動障害を呈するタイプと後眼窩脂肪組織の増大が著明な眼球突出の強い2つのタイプに分けられるが、いずれもその病因は不明である。今回は後眼窩組織における病態の解明を目的に、前者に対してapoptosisの関与を、後者に対して後眼窩脂肪組織に浸潤しているTリンパ球のクローニングを行った。 (A)外眼筋組織におけるApoptosisの関与 悪性眼球突出症患者20例について手術時に得られた外眼筋組織におけるapoptosis,Fas,Fas ligand,Bcl-2の発現を検討した。19例中17例に外眼筋細胞にapoptotic nucleiを認めた。Apoptotic nucleiの割合は健常人(7例)の0.4%に比し、12.1%と有意に高く、しかも外眼筋腫大度の正の相関がみられた(r=0.47、P<0.05)。Fasは18例中11例に外眼筋細胞に発現が認められた。Fas ligandは浸潤細胞にのみ発現がみられた。Bcl-2は全例発現していなかった。以上より外眼筋細胞に対するapoptosisの本症の病態への関与が示唆された。 (B)後眼窩脂肪組織に湿潤しているTリンパ球のクローニング 悪性眼球突出症の患者2例より、101個のT細胞クローンとT細胞ラインを樹立した。 1)細胞表面マーカーの解析: CD4+T細胞が30〜33%、CD8+T細胞が67〜70%と、CD8+T細胞が優勢を占めていた。これに対し、T細胞クローンでは、CD4+クローンが84個、CD8+クローンが17個とCD4+クローンが優勢であった。 2)サイトカイン産生能: 16個のクローンに関してCD3抗体刺激時のサイトカイン産生能(IL-2,IFNγ,IL-4,IL-6,IL-10)をELISAにて検討した結果、Th0パターンを示すものが13個、Th1が3個であった。Th2パターンを示すものはみられなかった。 3)自己線維芽細胞に対するT細胞応答: Autologous orbital fibroblastsに対する反応性を3H-thymidineの取り込み、IFNγ産生を指標に検討したが、T細胞クローンの増殖反応はみられなかった。さらに線維芽細胞表面にTSHレセプターの発現をはかり検討したが、陽性反応は認められなかった。 以上より、後眼窩脂肪組織にはTh0ないしはTh1タイプのCD4+T細胞が本症の病態に関与している可能性が示唆された。しかしながら自己抗原の本体は未だ不明である。
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