研究概要 |
PNHは造血幹細胞変異に起因し,溶血,血栓,造血不全,白血化など多彩な病態を呈する。溶血機序は最近解明され,主死因の造血不全等の重要課題が残る。その発生には造血細胞の内因性異常に加え外因性機序が考えられる。我々はこれまでにPNHと再生不良性貧血(AA)の臨床的緊密性を確認し、両疾患に共通の免疫介在性造血障害を指摘してきた。そこで、造血障害性T細胞検索と共に、AAで有力視されるアポトーシス(Ap)介在性造血障害をPNHにも想定しその実証を試みた。通常、Ap証明には骨髄内Ap細胞、病的T細胞やサイトカイン異常の検出、さらにAp情報伝達膜分子FASの発現解析などがある。しかし、これらは病初期ほど明瞭で、造血不全が完成するほどAp耐性細胞が出現すると我々は考えて、まず造血不全程度が異なるPNH症例におけるAp耐性クローンの検出を試みた。予想どおり,PNH症例の顆粒球は健常人のに比べて、自発性および杭FAS抗体誘発性Apに対する抵抗性を示した。また幹細胞を含むPNH骨髄CD34陽性細胞も正常対照に比べて、TNF-αやIF-γ処理によるFAS誘導後のFAS介在性Apへの抵抗を示した。さらに、AA症例顆粒球も同じ性質を呈した。ところが、リンパ球は生来のAp抵抗性ゆえに病的抵抗性は不明であった。奇妙なことに、PNH骨髄ではPNH細胞の他にもAp抵抗性が認められ、この特性がPNH表現形質の責任遺伝子であるPIG-Aのみでは説明できないことを示唆していた。 以上より我々はPNH骨髄障害発生にApが関与すると考え、さらにPNHクローンのAp耐性はこの時に獲得され、これが補体感受性にも拘わらず骨髄内で正常細胞よりも生存優位を呈する分子基盤になっていると結論づけた。この耐性の分子機構や獲得機序は、PNHに留まらずAAや白血病などの病態生理の理解にも大きく貢献すると予想され今後の重要課題である。
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