研究概要 |
糸球体内圧亢進下においてはメサンギウム細胞に過大な伸展負荷がかかっている。そこで培養メサンギウム細胞に機械的伸展刺激を加えこの細胞への影響を検討した。その結果,培養メサンギウム細胞におけるTGF-β1,β3の遺伝子発現は伸展刺激後,時間及び伸展度依存性に増加したが,TGF-β2の発現にはほとんど影響がなかった。これに伴いTGF-βの産生・分泌も増加したが,上清中に分泌されるTGF-βの大部分は潜在型であり,伸展刺激によって活性型TGF-βの割合はほとんど不変であった。伸展刺激によるTGF-β発現の亢進はアンギオテンシンIIと相加的であった。伸展刺激は同時に細胞外基質(I型,IV型コラーゲン,フィブロネクチン)の発現も刺激したが,その増加の大部分はTGF- β産生を介していた(Hirakata1997)。伸展刺激はPDGF A鎖,B鎖の発現も亢進させた。伸展刺激によるTGF-βの発現亢進はチロシンキナーゼ依存性で,伸展開始24時間以後は少なくとも一部はPDGFの増加を介したものであった(Kaname1997)。さらに,伸展刺激によりTGF-βI型ないしII型受容体の発現およびTGF-βのメサンギウム細胞への結合も増加した。以上より,機械的伸展刺激は培養メサンギウム細胞におけるTGF-β産生およびTGF-β受容体結合をいずれも増加させ,さらにTGF-β発現が同時に誘導されるPDGFによって増強されることにより,伸展刺激後の細胞外基質の高い発現レベルが維持されていると考えられた。この結果は,糸球体高血圧における糸球体硬化お形成過程でも特定の増殖因子が関与することを示唆している。
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