研究概要 |
ミオイノシトールは腎髄質細胞で同定された主要なオスモライトの一つで、細胞外の高浸透圧刺激に反応してミオイノシトール輸送体(SMIT)により細胞内に蓄積し、細胞内外の浸透圧バランスを保つ働きがある。ラット腎においてSMITは、集合管とヘンレの太い上行脚(TAL)に強く発現する。腎におけるミオイノシトールおよびSMITの意義を明らかにするため、ミオイノシトール輸送の阻害による影響を検討した。まず、ミオイノシトールのアナログであるメチレンミオイノシトール(MMI)のミオイノシトール輸送に対する阻害作用を明らかにするため、高浸透圧条件下(500mosm/kg)でMDCK細胞を培養し,種々の濃度のMMIがミオイノシトール輸送とその蓄積に与える影響を検討した。MMIは競合的にMI輸送を阻害し(Ki=1.6mM),細胞内のミオイノシトール蓄積を抑制したが,MMI自体の蓄積はみられなかった.MMI存在下で高浸透圧下における細胞生存率は著明に低下したが,ミオイノシトール投与により回復した.また、MDCK細胞のもう一つのオスモライトであるベタインの投与により生存率は回復した。ラットに対してMMIを投与することにより、髄質外層を中心とする尿細管変性を認めた.Tamm-Horsfall蛋白による免疫組織学的検討により、主としてTamm-Horsfall蛋白陽性細胞が障害されることから、TAL細胞を主体とする尿細管変性であると考えられた。この変化はNaCl負荷により増強され,ミオイノシトール投与により抑制された.さらに、TALにおけるオスモライトと想定されているベタインの大量投与により尿細管障害が抑制された。一方、MMIによる髄質内層の変化は軽微であった.以上のことから、TALにおいてミオイノシトールおよびその輸送体が浸透圧調節に関連して重要な役割を果たしていることが示唆された.
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