研究概要 |
シスプラチン(CDDP)誘導性アポトーシス(AP)の細胞内機構をSV40大型T抗原遺伝子導入トランスジェニックマウス由来近位直尿細管終末部(S_3)細胞を用いて検討した。(1)誘導される細胞死形態:CDDPにより形態学的および生化学的にAPに特徴的な変化が認められた。(2)Caspaseの関与:APの実行に関与するcaspase family proteaseの中でCDDPによるAPにおいてはcaspase-3の関与が、protein kinase C阻害剤スタウロスポリン(STS)によるAPではcaspase-3以外のcaspase family proteaseの関与が示唆された。すなわち誘導刺激によって相異なるcaspaseが関与することが示唆された。さらにcaspase-3 mRNA発現の腎内分布を検討したところ,糸球体から集合管に至るすべてのネフロンセグメントに発現が認められ,特に遠位尿細管および集合尿再管で最も高かった。(3)細胞周期の関与:Caspase活性の阻害によりCDDP処理S_3細胞で認められる細胞周期上のG_2 arrestの増加が認められた。すなわちCDDPによるcaspase活性化が細胞修復に関与するG_2 arrestを減少させ細胞死を誘導することが示唆された。(4)活性酸素の関与:CDDP処理S_3細胞において蛍光プローブと共焦点顕微鏡を用いてH_2O_2の発生を検出した。さらにH_2O_2処理S_3細胞においては細胞死形態としてAPに加えてnecerosis,oncosis及びapoptotic oncosisが観察された。(5)Oncogeneの関与:CDDP処理S_3細胞においてc-fos mRNA発現の亢進が認められた。また、bcl-2の過剰発現によりCDDP処理S_3細胞でのcaspase-3活性化および細胞死が抑制された。結論としてS_3細胞におけるCDDP誘導APにおけるcaspase,細胞周期,活性酸素及びoncogeneの関与が示唆された。
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