研究概要 |
遺伝性多指症/無嗅脳症マウス(Pdn/Pdn)の責任遺伝子がGli3であることが判明してきた。Gli3遺伝子は、マウス染色体13A2,-3にある。この領域は、ヒトの7番染色体短腕の相同領域である。ヒト染色体7p13には、Greig cephalopolysyndactyly syndrome(GCPS)がマップされている。ヒトの遺伝性疾患Greig cephalopolysyndactyly syndrome(GCPS)の責任遺伝子がGLI3であることが知られている。Gli3およびGLI3遺伝子は高いホモロジーを持ち、Pdn/PdnマウスとGCPSは、よく似た表現型を示すことからも、相同疾患と考えられる。表現型に類似性があり、責任遺伝子にホモロジーがあり、染色体上の位置も相同部位にある相同疾患動物を使って、その表現型の発症メカニズムを調べ、その結果をヒトの遺伝性先天異常の発症メカニズムに外挿する。これが、これからの先天異常学のストラテジーと考えている。本研究では、Pdn/Pdnマウスにおける無嗅脳症の発症メカニズムについて調べた。 嗅球は終脳先端が突出して大脳皮質から分化する。その嗅球の誘導には嗅神経線維が終脳先端に接着・浸入することがトリガーになっていると考えてきた。Pdn/Pdnでは、嗅神経線雑が終脳に接着・浸入しない。このことが、嗅球欠損の原因と考えてきた。今年度は、嗅球の僧帽細胞特異抗体である抗OCAM(olfactory cell adhesion molecule)抗体を使って、嗅球が欠損するPdn/Pdnマウスの胎生期を調べた。その結果、胎生13日には抗OCAM(+)の細胞群が終脳先端に認められた。その後、その抗OCAM(+)の細胞群は2極化し、背側のものは副嗅球原基、腹側のものは嗅球原基と考えられた。この結果から、嗅神経線維が終脳に浸入しなくても、嗅球原基は終脳先端に形成されることが明らかになった。しかしながら、.嗅球の正常な形態である終脳からの突出や嗅球の層構造形成は認められなかった。また、胎生末期には、腹側のOCAM(+)の細胞群が衰退していることから、嗅球原基は退行変性していると思われた。以上のことから、嗅球の形態形成には2段階あって、嗅神経線維が終脳に接着・浸入しなくても、嗅球原基は終脳先端で分化する。次に、正常な嗅球の突出した形態や層構造の形成には嗅神経線維が終脳に接着・浸入することが必要であると考えられた。
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