研究概要 |
死戦期のグラフト障害の誘因となる各種病態において,経皮的心肺補助装置(PCPS)が肝のviabilityを保つ上で有用か否かを,豚(体重12-18Kg)を用い,実験的に検討した。PCPSは人工肺,遠心型ポンプを用い,総腸骨あるいは下大静脈脱血,総腸骨動脈あるいは大動脈送血の回路を用いた。正常時はポンプ流量は1-1.5L/分が得られた。さらにこの回路により頚動脈と脾動脈ともほぼ同様な血圧,酸素分圧を示した。血液ガス分析,肝酵素,アンモニア,乳酸,ケトン体比,肝ATPを測定した。死戦期の各種病態として心tamponadeによる低血圧,低酸素血症,心停止を検討した。心tamponadeによる低血圧時には肝血流が障害された。心tamponade時は低venous returnのため,ポンプ流量は得られなかった。低換気による低酸素血症,高二酸化炭素血症を30分作成すると肝viabilityが低下し,60分で非可逆的臓器障害が発現し,死亡した。一方,低換気時は血圧が保たれているため、十分なポンプ流量が得られた。30分の低換気後PCPSを行うと肝に十分な酸素が供給される事がガス分析の結果で裏付けられた。さらに肝のエネルギーチャージ,viabilityも速やかに回復した事が,動脈血のケトン体化,アンモニア値、肝組織ATP量の推移により示された。肝酵素の測定は肝viabilityを判断する上で有用でなかった。心停止直後に腹腔冷却,PCPSを行う事で2時間は肝のviabilityを保ち得た。しかしながらポンプ流量は600-800ml/分と低換気時よりも少なかった。acidosisが徐々に進行するため,体外循環,低体温時に用いられる各種薬剤投与が必要である事が示唆された。 以上よりPCPSを臓器摘出の補助手段に用い,血液を酸素化する事は,死戦期における心停止,呼吸停止後等の臓器障害因子を軽減し,良好なグラフト肝を得る事が出来る。本法はmarginaldonorの利用を促進し得るものと考えられた。
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