研究概要 |
移植臓器の機能的予後は,臓器摘出から移植後血流再開までの阻血および再灌流時の臓器障害(虚血・再潅流障害)により影響を受ける。われわれは,虚血・再潅流障害におけるサイトカインの関与と,その産生の上位調節機構である細胞内シグナル伝達系に着目し,虚血・再灌流障害発生のメカニズムを明らかにすることを目的に研究を進めてきた。 その結果,培養細胞を用いた研究で,虚血・再酸素化によりサイトカイン遺伝子の転写因子NF-κBの活性が増強され,チロシンキナーゼ阻害剤によりその活性化が抑制されることが明らかとなった。さらに,マウスの虚血・再潅流モデルを用いた研究から,肝虚血・再潅流障害に炎症性サイトカイン(TNF-α,IL-6)が関与し,チロシンキナーゼ阻害剤であるゲニステイン投与によりサイトカインの産生が抑制されるとともに,肝虚血再潅流障害が軽減されることが明らかとなった。また,細胞内シグナル伝達系に関わるMAP kinase familyのひとつで,アポトーシスとの関連が推察されているJNK(c-Jun N-terminal kinase)に関する研究で,肝虚血時間が短い(虚血障害が軽度な)ほど再灌流後のJNKの活性化は強く,しかも肝細胞のアポトーシスも多く認めた。 以上の結果から,サイトカイン産生の制御によって虚血・再灌流障害を軽減できること,また,虚血・再灌流後のJNKの活性化と肝細胞アポトーシスは,細胞障害に対する保護的役割を担っていることが示唆される。
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