研究概要 |
ヒト胆汁中には大腸発癌に関与すると思われる物質が存在する。内因性物質では胆汁酸、外因性物質では環境からの発癌物質が肝臓で代謝、排泄されたものが含まれている。今回の実験結果を列挙する。(1)ヒト胆汁をラットに2週間、経口投与。大腸の前癌病変であるaberrant crypt foci(ACF)の形成を調べたところコントロール群に比し有意の形成を認めなかった。その理由として、大腸へ物質が到達する前に胃、小腸で吸収された可能性も考えられたので、(2)ラット大腸の起始部を分割。人工肛門を作成し遠位側の空虚な大腸内に胆汁を2週間注入しACF形成を調べた。しかし、やはり形成は認められなかった。そこで現在、この粘膜のDNAにおけるDNA付加体を^<32>P-ポストラベル法で調べる実験が進行中である。(3)ヒト胆汁をin vitroでDNAと反応させると3種類のDNA付加体が生じることがわかった。そして日本人とバングラデシュ人の胆石症患者の胆汁を比較すると前者が約1.4倍DNA反応性物質が多く含まれていることがわかった。また、胃癌・大腸癌患者のそれは非癌患者に比べて約4.3倍DNA反応性物質が有意に多く含まれていた。この事は、癌患者は発癌物質により多く暴露されているか、または、発癌物質の解毒や活性化酵素の働きに差があることを示唆している。(4)ヒト胆汁成分である5種類の胆汁酸(CA,DCA,CDCA,LCA,UDCA)がラットに於いてアゾキシメタンにより誘導される大腸ACFの形成への影響(プロモーション作用)をみた。CA,DCA,CDCA,LCAでは1.9〜2.6倍のACF形成促進、UDCAではACF形成が55%抑制された。また、胆汁酸のみを投与してもACFは形成されないことから胆汁酸そのものにイニシエーション作用はないことがわかった。
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