研究概要 |
抗癌剤治療後に癌が再発した場合に生じる腫瘍の耐性獲得は、治療上きわめて重要な課題である。現在、薬剤耐性のメカニズムとしてはそれぞれの薬剤に特徴的な膜輸送システム・作用レベル部位を反映した遺伝子レベルの変異あるいは発現異常が明らかにされてきている。とくに癌化学療法後の耐性獲得の機序としてはMDR-1遺伝子(p-glycoprotein)、MRP(MDR-associated protein)遺伝子等の多剤耐性遺伝子の発現増強があると考えられている。これらの遺伝子発現の制御あるいは耐性の機序を解明することを目的として、我々は胃癌における多剤耐性遺伝子の発現と抗癌剤感受性との関連を検討した。 まず、胃細胞株(MKN1,28,45,74,KATO-III,SCH等)、耐性細胞株と親株(PC3,4,5,L1210,MCF,CHO等)、ならびに当科・関連施設で切除された進行胃癌症例より採取した新鮮凍結標本をもちいて多剤耐性遺伝子MRPおよびMDR-1の発現をNorthern blottingおよびRT-PCR法により検討するとともに、southern blottingにより遺伝子増幅について検討した。また抗MRP抗体MRP-r1を用いた免疫組織学的手法により耐性遺伝子産物の発現を検出し細胞内局在について検討した。その結果、多剤耐性遺伝子MRPは胃癌手術症例43例中27例(63%)に発現がみられ、その局在は主として細胞質であった。さらに、耐性遺伝子産物の発現と抗癌剤感受性との間連を検討するためMTT assayを行った。胃癌細胞株においてMRPの発現と抗癌剤感受性に有意の相関が認められた。また胃癌切除症例29例の胃癌組織を用いたMTT assayでもdoxorubicinなどの薬剤について、MRPmRNAの発現と抗癌剤感受性に有意の相関が認められた。
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