平成8年度は、膵癌進展の正確な把握を目的とし、外科的切除時の膵切除断端における膵内微少浸潤の有無を、病理組織学的検索とK-ras変異とにより比較し、潜在的微少浸潤の検討を行なった.【対象と方法】対象は切除可能であった膵癌18症例.内訳は膵管癌14例、良性粘液産生膵腫瘍3例、悪性粘液産生膵腫瘍1例であった.パラフィン包埋された切除標本を用い、癌本体及び切除断端のブロックより、DNAを抽出し、K-ras exonl codonl2を含む領域のPCRを行い、そのproductをmembraneにdot-blotし、6種類の変異型probeを用い、hybridizationを行い、変異型を決定した.また同じDNAを使用し、PCR-RFLP法によりK-ras変異の有無を検索した.【結果】18症例60検体のうち42検体でDot-Blot hybridizationが可能であり、その内の14症例29検体にK-ras変異を認めた.膵管癌14例中11例(78.6%)良性粘液産生膵腫瘍3例中3例(100%)悪性粘液産生腫瘍1例中0例(0%)であった.その変異型は膵管癌11例中GTT 5例TGT 5例GAT 1例、良性粘液産生膵腫瘍3例TGT 2例GTT 1例であった.今回検討した内で、病理組織学的には断端部癌陰性と診断されている症例のうち2例にK-ras変異を認めた.その2例は癌本体と断端部での変異型は一致していた.【考察】今回の検討により、病理組織学的には断端部癌陰性と診断されている症例の中にもK-ras変異が認められ、組織学的検索では検出できない癌進展の可能性を示唆した.今後、症例数を増やし、リンパ節における変異や再発形式との関についても検討を加え、また術中の迅速遺伝子診断についても研究を継続していく予定である
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