研究概要 |
低体温時の脳血流、脳グルコース代謝の変化を分析し、低体温時の脳血流調節因子につきに検討した。 1. 体温(直腸温)と脳内温度の関係 体温が37℃においては大脳皮質の温度は36.5±0.3℃、尾状核は36.7±0.2℃、体温30℃ではそれぞれ29.1±0.2,29.6±0.3と脳内温度が直腸温より低い傾向を示した。 2. 生理的パラメーター 常温と低体温時の生理的パラメーターのの比較では低体温で血圧が低下を示したが統計学的には有意なものではなかった。 3. 局所脳グルコース代謝 常温,低体温時の脳局所グルコース代謝の測定結果は、低体温では脳各部位のグルコース代謝は46〜59μmol/100g/minの範囲で、低下率は40.0〜55.3%の範囲であった。皮質の平均低下率は50.7%で,深部核の平均低下率は44.7%で両者間に有意差(p=0.146)は認められなかった。 4. 局所脳血流 常温,低体温時の局所脳血流の測定結果は、低体温では脳各部位の脳血流は114〜64ml/100g/minの範囲であった。低下率は18.6〜49.2%の範囲で,皮質の平均低下率は24.2%で,深部核の平均低下率は41.6%で両者間に有意差を認めた(p=0.003)。 5. 一酸化窒素(NO)とアデノシン濃度 常温で皮質のNO産生量は51.0±3.1、尾状核は43.6±2.1、30℃ではそれぞれ47.8±3.3、41.8±2.5と低体温でわずかに減少するが皮質と尾状核で差異はなかった。一方アデノシン濃度は常温では皮質、尾状核ほぼ同じ値であったが、低体温では皮質(131.5±10.4)に比較して尾状核(101.5±26.9)有意に低値を示した。 以上から30℃の低体温では脳のグルコース代謝は比較的均一に低下するが、血流は代謝に比例して低下するのではなく、何らかの因子により調整されていると考えられた。今回の研究からはその因子の一つとして、アデノシンが示唆された。
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