研究概要 |
申請者らは頭蓋内圧亢進の病態、水頭症の病態を分子生物学的手法を用い検討している。現在までに、1)ラットにおける頭蓋内圧亢進時のc-fos,c-jun等のimmediate early gene(IEG)の発現の変化、2)ラット頭蓋内圧亢進時のCNP,およびCNPの受容体であるGuanylate Cyclase-B(GC-B)のmRNAの発現の変化、3)カオリン水頭症ラットhippocampasにおけるhsp,bcl-2,bax mRNAの発現の変化、の3つを研究目標に行ってきた。 1)に関しては、ICP亢進時の遺伝子レベルでの神経細胞応答を明らかとする目的で、ラットICP亢進モデルを用いIEGの発現を観察した。ラット大槽内にチューブを留置し人工髄液の入ったボトルへ接続、この高さを変えることによりICPを変動させるモデルを新しく開発した。高度ICP亢進群で両側大脳皮質、歯状回を中心にIEGの有意な発現を認めたが中等度ICP亢進群では認められなかった。高度ICP亢進群ではCBFが低下し虚血状態となっていた。今回の結果から神経細胞はCBFの保たれる中等度のICP亢進には良く耐えうるが、CBFの低下する高度ICP亢進時には神経細胞応答のmediatorと考えられるIEGが発現することが明らかとなった。また水頭症に伴う痴呆症状にhippocampal formationが関与していることが示唆されている。今回ラットカオリン水頭症モデルにおいて、同部での遺伝子応答の有無を検討する目的でhsp,bax,bcl-2 mRNAの発現の変化を観察した。今回の結果から、脳室拡大が著明に進行した亜急性期(10-12日)において、歯状回にhsp,baxのmRNAが発現することが明らかとなった。septal nucleiから歯状回へのpathwayは脳室拡大に伴い著明に伸展されており、この系のdeafferentiationが歯状回でのhsp,bax mRNAの発現の主な要因と考えられた。hspは、種々のbrain damageに対するneuronal stress respnseのマーカーとして用いられており、baxは、apoptosisを誘導する遺伝子として知られている。このような遺伝子応答が生じていることは、歯状回において何らかの機能的障害や、apoptosisが生じている可能性を示唆するものと考えられた。
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