研究概要 |
【目的】重症頭部外傷患者の局所脳代謝,すなわち酸素代謝,局所脳血流,嫌気性代謝産物(乳酸・ピルビン酸,L/P)と脳アシドーシス,興奮性アミノ酸,電気生理学的活動をモニタし,それに及ぼす頭蓋内圧(ICP)亢進,脳灌流圧(CPP)低下に伴う全脳虚血の影響と過換気療法,低体温療法など各種神経集中治療法の効果を解析することを目的とする.とくに本年度は,重症頭部外傷患者に伴う脳アシドーシスの病態解明と治療法確立のため,髄液中pH,PCO2,HCO3-,PO2,SO2の連続モニタとL/P測定により酸塩基平衡と酸素代謝の障害を評価し,頚静脈洞酸素飽和度(SjO2),局所脳酸素飽和度(rSO2),頭蓋内圧(ICP)・脳潅流圧(CPP),頚静脈血液温(Tjb),呼気終末CO2分圧(PetCO2)のモニタ,頚静脈血ガス分析とL/P測定との関係から,過換気療法(HV),tromethamine(THAM)と低体温療法(HT)を検討した. 【対象と方法】対象は,重症頭部外傷13例(限局損傷9,びまん性損傷4;17-66歳,平均39).全例脳室内の特殊センサーで,髄液の温度,ph,PCO2,HCO3-,BE,PO2,SO2のモニタとL/P測定を行い,頸静脈血でも洞パラメータを計測,Tjbで温度補正した髄液と頸静脈血のデータとSjO2,rSO2,ICP/CPP,Tjb,PetCO2との関連を評価,HV,THAMとHTの効果を検討した. 【結果】a)髄液酸塩基平衡:1)全例でpH低下がみられた(6.6-7.2).2)PCO2上昇とHCO3-低下傾向を認め,高度アシドーシス例で著明にHCO3-低下しL/Pも上昇した.3)頸静脈血では,髄液よりPCO2は低くHCO3-は高く,ほぼ全例でpHは正常域であった.b)酸素代謝とICP/CPP:高度アシドーシス例で,髄液PO2・SO2は低下傾向を示し,脳虚血(SjO2<55%,rSO2<60%),ICP>20mmHg,CPP<60mmHgとも関連した.c)治療効果:1)HV:髄液PCO2低下に伴うpH低下を認めたが,高度アシドーシス例で効果は十分でなかった.2)THAM:静注では髄液pHに対する効果は明らかでなかった.2)HT:全例で髄液pHとSO2は改善した. 【結論】重症頭部外傷患者に伴う髄液アシドーシスは,[CP亢進・CPP低下や脳虚血に伴う髄液酸素代謝異常とも関連し,乳酸・ピルビン酸上昇に伴うHCO3-低下と過換気やTHAM投与に抵抗性のPCO2上昇に起因し,低体温による効果を認めるも十分でなく,今後の興奮性アミノ酸などを加えた更なる病態解析と新しい治療法の導入も必要と考えられた.
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