研究概要 |
関節組織の加齢変化機序の解明を目的として,これを電顕レベルで超微形態学的に,とくに細胞代謝機能の面から検討した。関節組織のうちでは関節軟骨に最も早期から加齢変化が出現することをわれわれはすでに確認している。本研究では,とくにこの点をさらに詳細に検討し,関節老化の背景を解明するため,1)老齢ラット及びヒトの関節軟骨の変性所見を中心として細胞内外の変化を,また2)ヒトの老化を基盤とする退行変性の代表的関節疾患としての変形性関節症における関節軟骨の細胞内外の変化を,さらに3)関節軟骨の形態学的破綻に対する修復態様,などを重点的に検討し,老化の本質を理解することを試み,次の様な結果を得てきた。 老齢関節軟骨の胞体内には,電子密度の低い,雲絮状,無定形で,集合状の物質が観察され,ときにはこれが充満し破壊寸前の様相を呈する。これは細胞の変性物質と考えられ,その生成には粗面小胞体が関連するようである。さらに微小管構造物の増加も加齢所見の1つと考えられる。変形性関節症では濃淡,大小の脂肪滴や微細フィラメント様物質,多量の異質グリコーゲン顆粒が観察され,それぞれ脂肪,蛋白質,含水炭素の三大栄養素の細胞内での異常な蓄積状態と理解され,全体的に物質代謝の異常を示し,本症病態の初期変化として代謝異常の先行が考慮される。さらに興味い所見として,層状膜構造を呈するミエリン小体様物質が認められた。この出現は細胞の変性過程の1つを示すとみられる。これは多量のリン脂質を含む膜由来のもので,リン脂質を含む異常形態のミトコンドリアが多数観察されたことは,その形成への関与を示唆する。組織欠損を伴う硝子軟骨の修復は,骨髄未分化間葉系細胞からの線維軟骨による代償的,機能的修復が主体をなすと考えられ,他組織にみられる様なそれ自身の再生は認められない。損傷関節軟骨の修復態様は加齢変化の進展速度の理解に意義がある。
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