研究概要 |
加齢による骨強度の低下は大腿骨頚部骨折の最も大きな要因である。このような骨強度変化は骨体積密度(骨の有孔率)に依存する.そこで骨粗鬆化に伴う骨体積密度変化を皮質骨と海綿骨(骨梁構造特性に注目し3種類に分類)の骨代謝機能の低下による体積密度低下を示す骨粗鬆化の数学モデルを作成し、骨体積密度(骨量)の経時変化をシミュレートした.骨梁構造,大腿骨中枢部の各部位における骨粗鬆化速度は骨梁構造に依存するところが大きい,これに個々の患者の骨代謝活性能を考慮すると個々の患者の将来の骨粗鬆化の程度を定量的に予測することができる.また,更に骨粗鬆化に伴う骨強度低下を推定するために骨梁構造のFEMモデルを作成し、まず,強度推定の信頼性を簡単な立方体構造で骨梁要素をランダムに配列し,統計的に強度のバラツキを評価した.以上の解析から,骨粗鬆化の進行速度はハバース管壁面でのみ骨代謝が行われる皮質骨が最も遅く,骨髄から直接骨のリモデリングがなされる海綿骨が早く進行することがわかった.また,海綿骨のなかでも骨梁の構造が棒状である部位は進行速度が早く,板状の要素から構成されるハニカク構造の海綿骨が比較的進行速度が緩慢であるとの解析結果が得られた.これらの骨粗鬆化に伴う骨強度はそれぞれの進行速度に依存して指数関数的に低下することがわかった. 以上は材料レベルでの強度低下の予測であるが,これらの骨強度変化を大腿部頚部骨折に適応し,頚部骨折の発生荷重条件を模索するために同部のFEM全体モデルを作成してそれぞれの破壊荷重を推定した.FEM解析荷重条件として片脚起立時の骨頭反力,大転子筋力を負荷し,骨要素に発生する応力を三次元弾性応力解析を行って算出した.転倒の際の荷重環境が不明瞭であり,適当な資料がないため,通常の歩行を想定した解析に留まった.しかし,骨粗鬆化の進行に伴って、頚部表層部に比較的高応力の発生を認め,同部の骨の荷重負担の割合が大きくなることが確かめられた.
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