研究概要 |
平成8年度から平成10年度の3年間に、脊髄虚血後に起こる脊髄機能障害の発生機序におけるアデノシン受容体の役割を調べるため,以下の実験を行った。 1. 脊髄虚血モデルの特性評価 大動脈遮断中に近泣側大動脈圧を40mmHgに調節し、脊髄の側副血行を減じたモデルにおいて、大動脈遮断時間がその後の後肢運動機能に及ぼす影響を術後72時間観察した。10分間の大動脈遮断では100%(8/8)のラットが完全な対麻痺となった。6分間の大動脈遮断では一過性の後肢運動機能障害を示したが、最終的には100%(7/7)が正常歩行にまで回復した。 2. アデノシン受容体拮抗薬およびアデノシン受容体作動薬の影響 1) テオフィリン(アデノシン受容体拮抗薬)100μgの脊髄くも膜下投与は6分間虚血モデルでの後肢運動機能に影響を及ぼさなかった。 2) プロペントフィリン(内因性アデノシンの取り込み阻害薬)30μg、100μgの脊髄くも膜下投与は10分間虚血モデルにおける後肢運動機能障害を改善しなかった。 3) 2-クロロアデノシン(選択的アデノシンA1受容体作動薬)10μg、30μgの脊髄くも膜下投与は10分間虚血モデルにおける後肢運動懺能障害を改善しなかった。 3. 脊髄くも膜下腔のマイクロダイアリーシス法による脳脊髄液中のグルタミン酸の定量 1) 2-クロロアデノシンは10分間虚血後3時間まではの脳脊髄液中グルタミン酸濃度を低下させなかったが,4時間後に有意に低下させた, 以上の結果からアデノシン受容体活性化は脊髄でも神経毒性の報告されているグルタミン酸の濃度を低下させた.しかしながらアデノシン受容体は,大動脈遮断中の脊髄への側副血行を減じた動物モデルでは,虚血性脊髄神経障害発生に重要な役割を果たしていないと考えられた.またこれまでに報告されているアデノシン受容体活性化による神経保護作用は直接の神経保護効果ではなく,側副血行の改善によるものである可能性が示唆された.
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