研究概要 |
我々は前立腺癌の実験モデルとして全世界で用いられているDunning R3327ラット前立腺癌の高率に肺転移を示すサブラインを用いて,転移抑制遺伝子のヒト染色体上における位置の同定を研究してきた。このサブラインに微小細胞融合法を用いてヒト正常染色体を1本移入させることにより,移入されたヒト染色体が転移を抑制するか否かをみることが可能である。 我々のグループはこのラット前立腺癌モデルを用いた実験系により、ヒト11番染色体の11p11.2よりKAI1前立腺癌転移抑制遺伝子をクローニングした。KAI1は膜4回貫通型蛋白スーパーファミリーに属し、アミノ酸配列よりCD82であることが判明している。平成8年度の成果によりKAI1蛋白に対する抗体を用いて臨床材料を検索し、KAI1遺伝子の発現と癌の進行が逆相関することを示した。これはKAI1遺伝子が前立腺癌の進行に深くかかわっていることを示唆するものである。またKAI1遺伝子の存在する領域のヘテロ接合性の消失(LOH)をみたところ蛋白レベルで発現が抑制されていたにも関わらずLOHの頻度は低く、KAI1遺伝子の発現は他の未知の遺伝子によっても制御されている可能性が示唆された。 またこのラット前立腺癌モデルを用い、8p21-p12にも転移抑制遺伝子が存在することを示した。この転移抑制は、8番染色体によりラット前立腺癌細部の浸潤能が低下することにより引き起こされることを示したが、ヒト臨床検体においてもその領域のLOHと癌の進行との間に相関が認められている。ホルモン非依存性となり癌死した前立腺癌患者の約80%において8番染色体短腕にLOHが認められており、ホルモン反応性消失を含めた癌の進行との関連性についても今後の検索が待たれる。
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