研究概要 |
本研究ではヒト腎細胞癌の進展機構に関与する遺伝学的変化の探索を目的として,原発腫瘍81症例の染色体以上の解析を行った.これらの奨励を転移性(9例)と非転移性(72例)に分類し,それぞれについて染色体以上の種類や頻度を比較した結果,9番染色体短腕(9p)の欠失が転移性6例に,非転移性2例に認められた.また,1番染色体短腕(1p)の欠失も転移性8例に,非転移性2例にそれぞれ認められた.この様に9p及び1pの欠失が転移性腫瘍に高頻度に認められたことから,これらの染色体上に腎癌の進展に関わる遺伝子が存在することが想定される.9p21には細胞周期を制御する遺伝子の一つであるp16遺伝子がマップされているが,最近この遺伝子の変異が各種の癌細胞株において高頻度認められることから新しい癌抑制遺伝子として注目されている。ヒト腎細胞癌では原発腫瘍において9pのLOH(loss of heterozygosity)が約40%の症例に認められる.また,p16遺伝子の変異が進行性の癌に頻発するという報告もあり,癌の進展への関与が示唆されている。そこで今回腎癌の13細胞株(転移性8株,非転移性5株)を対象としてp16遺伝子の構造異常及び発現を解析した結果、11細胞株(転移性7株,非転移性4株)に変異が認められた.この結果だけを見るとp16遺伝子の以上が腎癌の進展に関与している可能性が考えられるが,本研究ではさらに解析に用いた細胞株の原発腫瘍組織についてもp16遺伝子の異常を解析した.その結果,いずれの組織においても異常は確認されなかった.つまり異常が細胞株にのみ集中していることから,p16遺伝子の異常は癌細胞の培養系における不死化に関与している可能性が考えられる。しかし,この変異が細胞株の樹立過程において起こった変化かあるいは既にp16遺伝子の異常を持つ癌細胞がin vivoにおいて存在していたかは今後さらに解析を要する。これまでの9p領域のLOHの解析結果ならびに転移性腫瘍の染色体解析における9p欠失の頻度(66%)を併せ考えると,9p欠失は腎癌の進展に関与しているがその標的遺伝子はp16ではないことも予想される。今後はさらに1番染色体短腕の欠失についても詳細な解析を要する.
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