ラットおよび兎の膀胱を使用してエタノールの膀胱収縮力に対する影響を研究した。まずラットの膀胱内圧をウレタン麻酔下に持続的に測定しつつ、頚静脈よりエタノールを注入し、膀胱内圧に対するエタノールの影響を調べたところ、エタノールの注入量が増大するにつれて膀胱の排尿時最大収縮圧が減少し、しだいに分割排尿となり、最後には溢流性尿失禁を呈した。次に膀胱の神経支配および血流の影響を取り除く目的で膀胱を取り出してwhole bladderモデルを作成し実験浴槽内での膀胱収縮力に対するエタノールの直接作用を観察した。その結果、エタノールを加えることによって濃度依存性に各種刺激に対する膀胱の収縮力は低下した。また、べつの実験系を使用して兎の膀胱筋切片に対するエタノールの影響をマグヌス法を用いて実験した。その結果兎の膀胱筋切片はエタノールを加えることにより筋切片の張力が減少し、かつ各種刺激に対して収縮力が抑制された。一方兎の尿道に対するエタノールの影響は収縮反応、弛緩反応いずれもエタノールによって低下した。すなわちエタノールは膀胱の張力および刺激に対する収縮力を低下させ排尿効率を悪化させる。尿道に対しては収縮弛緩いずれも低下させる。 以上より前立腺肥大症患者で飲酒にともない尿閉状態となるメカニズムは、従来言われている尿道や前立腺の飲酒にともなう浮腫、あるいはエタノールの利尿作用に起因するというより、むしろエタノールの膀胱に対する張力低下および収縮抑制作用が中心であると考えられた。
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