研究概要 |
ラット膀胱癌細胞株NBT-IIの継代中に自然発生した、親株とは形態を異にする細胞をクローニングし、5種類の亜株(NBT-T1,T2,L1,L2a,L2b)を得た。これらのうち、NBT-T1とT2(T系の細胞)は円形の密なコロニーを形成するのに対して、NBT-L1、L2a、L2b(L系の細胞)はより伸長した細胞形を示し粗なコロニーを形成した。いずれの細胞も増殖速度は高く、倍加時間は13-17時間であった。invasion chamberを用いて浸潤能を調べた結果、T2はほとんど浸潤活性を示さず、L1,L2a,L2bは各々T1の約3倍、9倍、23倍の活性を示し、細胞の形態、運動性と浸潤活性との間に明らかな相関性が認められた。癌細胞の浸潤、転移に関与することが知られている因子のうち、細胞接着因子と細胞増殖因子およびその受容体の発現を亜株間で比較した結果、L系の細胞ではE-cadherinの含量が低下し、さらにT系の細胞では細胞間接着部位にE-cadherinに局在するのに対して、L系の細胞では主として細胞質に存在していた。また、L系の細胞にのみ変異E-cadherinと思われる分子種が検出された。E-cadherinの機能発現に必須なcatenin(α,β,γ)の含量には亜株間で差がなかった。一方、conditioned mediumを分析した結果、分子量約65,000の蛋白質がL系細胞の培地中で増加していた。この蛋白質のN-末端アミノ酸配列を決定したところ、epithelin precursor(teratoma由来の細胞株でautocrine growth factorとして機能していることが報告されている)のN-末端配列と一致した。これらの結果は、E-cadherinの発現の低下とautocrine factorとして機能するepithelinの増加が膀胱癌細胞の浸潤、転移能の増大に結びつくことを示唆している。
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