新たに樹立した膀胱癌細胞株(JMSU1)をlimiting dilutionによるクローニングにて、いくつかのクローンを単離し、膀胱癌クローンを樹立した。それらクローンの性状解析を行った。クローン毎で倍加時間は様々であった。in vitroでの細胞形態の観察では紡錘形から矩形と多様な形態を呈した。造腫瘍性に関しては、クローン毎で造腫瘍性は異なっていた。H&E染色では何れのクローンも親株と同様にGrade3移行上皮癌の組織像を呈していた。粘液染色や免疫組織染色(サイトケラチン、ビメンチン)ではクローン毎に明らかな差異を見出せなかった。Fingerprint解析を行ったところ、すべてのクローンは親株と同一のパターンを示し、contaminationのないことを確認した。PCR-SSCP法にて、p53遺伝子(Exon5-9)、Ha-ras遺伝子(Exon1-2)、Ki-ras遺伝子(Exon1-2)の変異の有無を各クローンで検討し、異常があれば直接塩基配列決定法でその変異を同定した。すべてのクローンで、p53遺伝子のExon8に突然変異が認められたが、Ha-ras遺伝子とKi-ras遺伝子に変異は検出されなかった。p53遺伝子の変異は、codon280のAGA→ACA(Arg→Thr)であり、すべてのクローンに共通していた。浸潤能をin vitro invasion assayにて評価比較したところ、各クローンの浸潤度は様々で浸潤能に多様性が認められた。以上より、我々の樹立したクローンには生物学的多様性が確認されたが、p53遺伝子、Ha-ras遺伝子、Ki-ras遺伝子に関しては同様の遺伝子型を示し、クローンの由来が単一であることが示唆された。また、樹立クローンは、膀胱癌の生物学的多様性の研究モデルとして有用であるといえよう。
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