研究概要 |
抗癌化学療法薬剤投与スケジュールについての基礎的検討ではヒト膀胱由来培養細胞KU-7を標的細胞として各種濃度のMTXを添加培養した際のフローサイトメトリーによるBrdU/DNA二重解析より検討した細胞増殖動態の観察ではMTXの濃度依存的(0.1-50mcg/ml)かつ経時的に細胞のBrdU標識率は増加した。そこでMTX,VLBの2薬剤を選択し,それぞれ単独,MTX全投与VLB接触,MTX,VLB同時投与の4群で薬剤の初期投与72時間後における殺細胞効果をcristal violet dye exclusion法により検討するとMTX前投与VLB接触群に2剤同時投与群に比しより高い殺細胞効果が認められた。膀胱癌組織に対するフローサイトメトリーによるBrdU/DNA二重解析では100例の膀胱癌における検討において55例にDNAaneuploidyを認め,15例のgrdae-1腫瘍の内4例に,一方24例のgrade-3膀胱癌の23例にDNA aneu-ploidyが認められた。膀胱癌100例の平均BrdU標識率は9.6±7.9%であり,これをgrade別に検討すると,grade-1で4.8±3.0%,grade-2で8.5±7.0%,grdae-3では15.7±8.9とhigh-grade腫瘍にBrdU標識率の高値が認められた。一方これを腫瘍深度別に検討すると,表存性腫瘍71例中26例(36.6%)にのみDNA aneuploidyが認められたのに対し筋層浸潤腫瘍では全例DNA aneuploidyであった。さらに表在性腫瘍のBrdU標識率は6.6±5.2%に対し,筋層浸腫瘍のそれは17.2±8.5と有意に高かった(p<0.01)。以上の結果はフローサイトメトリーのDNA ploidy解析ではhigh-grade,high-stage腫瘍においてDNA aneuploidyが高率に認められること,さらにこれらhigh-grade,high-stage腫瘍においてBrdU標識率は高値でありその細胞増殖活性が高いことを示すものと考えらた。局所浸潤膀胱癌に対する術後抗癌化学療法の治療成績では21例の局所浸潤膀胱癌症例に対し,M-VACによる術後補助化学療法施行症例のKaplan-Meier法による3年および5年生存率はそれぞれ38.1%,・28.6%であり,一方,retrospectiveに検討した25例の術後補助化学療法非施行症例の3年生存率は32.0%であり統計学的に有意な差は認め得なかった。浸潤性膀胱癌に対する膀胱温存治療の成績では13例の本法施行浸潤膀胱癌の内2例において治療後の生検で腫瘍の残存が認められたが,他の11例は画像診断,生検および尿細胞診において腫瘍の残存を認めずCRと判定された。これら11例の平均観察期間12.2±3.6カ月(治療開始日より)において,1例を除く10例に腫瘍の再発を認めず生存中であった。本治療施行13例の生存率を検討すると18カ月における生存率は60%であり,CR症例のそれは66.7%であった。 また、cisplatinumの抗ガン作用機序として活性化酸素の関与が示唆され、これをコンントロールすることにより副作用の軽減あるいは抗ガン作用の増幅が計れる可能性が示された。さらに、膀胱癌組織においてはかなり高率に顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)受容体を発現しており、これら細胞においてはG-CSF添加によりその増殖性が亢進する可能性が示され、今後治療への応用が示唆された。以上の結果より進行尿路癌に対する細胞の増殖活性誘導により抗ガン効果増強が可能であり、この方法を応用した集学的治療により膀胱温存治療が浸潤性膀胱癌の治療の選択肢として考慮し得るものであると思われたが,今後の長期観察が更に必要であるものと考えられた。
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