研究概要 |
指向性を持つマイクロ波による前立腺焼灼術が可能となるか研究を行った。マイクロ波発生装置として,我々が開発を行ってきたオリンパス光学工業(株)製のエンドサ-ムUMWを使用した。 (1)内視鏡のチャネルに挿入可能な太さ(約7Fr)のアプリケーターを試作した。アプリケーターの先端は,集束性のあるマイクロ波が放射されるようにアンテナ状とした。内視鏡下で前立腺へ放射するために,アンテナはアプリケーター側方に設け,周囲の絶縁体の材質は合成樹脂を使用した。 (2)前立腺ファントムとして鶏の砂肝を使用し,アプリケーター先端を挟みマイクロ波を放射した。出力30W,50Wとも焼灼によるcavity及び白色の熱変性部の体積は焼灼時間と正の相関が認められた。生体に対する検討として,麻酔下で豚の肝臓へマイクロ波をスポット放射した。焼灼中,問題となる出血はなく,数秒で2-5mmのcavityが形成された。麻酔下で兎に皮下トンネルを作製し,生理食塩水で灌流しながら,内視鏡下に筋層の焼灼を施行した。気泡の発生を伴うが,視野を妨げるようなことはなく,cavityの形成が可能であった。cavity周囲に3-5mmの深さの熱変性が生じることが組織学的に確認された。 (3)基礎的検討にて,マイクロ波スポット放射の組織焼灼能,及び出血,周囲温度などの安全性が確認できたため,前立腺肥大症6例に対し,通常の経尿道的前立腺切除術前に,前立腺マイクロ波スポット放射を施行した。5分間で深さ約5mmのcavityが形成され,その周囲に約2mmの熱変性層が組織学的に確認された。出血は殆ど認められなかった。現状では,マイクロ波のみで前立腺閉塞部を完全に焼灼するには時間がかかりすぎると考えられたが,より高出力のマイクロ波が放射できれば,通常の電気メスによる切除術に比べ低侵襲で,手技の簡単な前立腺肥大症手術が可能となることが示唆された。
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