研究概要 |
臨床および細胞遺伝学的に性分化異常症が疑われた19症例において,症例により末梢血,臍帯血,皮膚,性線,口腔粘膜,骨髄,羊水細胞あるいは胎盤絨毛組織の計40検体(ターナー症3例を含む表現型女性10例25検体,男性型9例15検体)について,必要に応じてFISH法,サザンブロット法(Y染色体17領域),全例に精巣決定遺伝子であるSRYを含むY染色体短腕末端から長腕末端の各部を認識する8座位およびX染色体2座位についてPCR法を用いて性染色体の構造解析を行った.その結果,マーカー染色体はQ,G分染法およびFISH法により,X染色体由来2例,Y染色体由来7例と確認された.これらY由来7症例および45,X/46,XY症例3例,性腺腫瘍2例(XY,XX),外性器異常2例(XX,XY),small Yの計15症例についてY染色体の構造解析を行った結果,46,XXの卵精巣症例の末梢血および左右性腺,およびXX型男性(尿道下裂・停留睾丸)症例の末梢血ではいかなるY成分も認められなかった.一卵性異性双胎症例では両児ともにmos47,X,+mar×2/45,X/46,X,+mar(組織限定性にその構成比率が異なる)であったが,Y長腕11.2から長腕末端までの領域の欠失が確認された.また,二卵性異性双胎では血液キメリズムが明らかとなった.出生前に診断された46,X,+marの2症例では,マーカー染色体はそれぞれY長腕を全欠損しているi(Y)(p10)と,残存Y長腕逆位inv(Y)(q10q11.23),del(Y)(q12)とであった.Y由来細胞を含む46,X,+mar核型の表現型女性5例において,性腺を含む様々な組織の染色体を分析することにより組織特異的ターナーモザイクが検出された.SRY陽性例ではシークエンスの結果,塩基配列に異常は認められなかった。 以上,産婦人科領域における性分化異常症例の多くは,性染色体に関連したモザイク,転座,欠失などが認められ性分化異常症の複雑さが示された.ヒトの「性の決定機構」および「性の分化機構」は,SRYの組織限定発現部位・時期に依存すること,性分化異常症の発症の原因がY染色体以外にも存在することを示すことができた.また,多胎妊娠における性分化異常に性決定遺伝子との関連に組織限定モザイシスム,キメリズムが密接に関与することも明らかにできた.
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