研究概要 |
我々は羊水中に高濃度に存在するドパミン(DA)が,卵膜でのプロスタグランディン(PG)産生を刺激し陣痛発来機構に関与していると想定し,DAと脱落膜切片との培養実験を行い,DAが脱落膜のPG産生刺激作用を有することを報告した。本研究ではまず,結合実験(アイソトープ:[^3H]SCH23390)を用いてヒト脱落膜に2種類のDAレセプターのうちDA-1レセプターを証明した(解離定数:1.87nM,最大結合量:79.0fmol/mg protein)。さらに競合阻害実験を行い,薬理学的にもこの結合部位がDA-1レセプターであることが確認され,DAの阻害定数よりD1サブタイプと考えられた。これにより,脱落膜におけるDAのPG産生刺激作用は,レセプターを介する作用であると推察された。次に,アラキドン酸カスケードの律速酵素であるホスホリパーゼ(PL)A_2のうち,レセプターを介するPG産生と密接な関係にある細胞質内在型PLA_2について,ヒト卵膜を用いて検討した。羊膜および脱落膜の細胞質画分を酵素源とし,基質として用いたリン脂質のsn-2位からのアラキドン酸あるいはオレイン酸の遊離量を比較し,細胞質画分にアラキドン酸特異性の高いPLA_2活性を認めた。さらに,ゲル濾過法にて80-90 kD の高分子量の分画にPLA_2の活性ピークを認め,羊膜および脱落膜に細胞質内在型PLA_2が存在することを証明した。最後に,羊膜および脱落膜において,陣痛発来前後での細胞質内在型PLA_2活性の変化について検討した。羊膜においては陣痛発来前後で酵素活性の変化はなかったが,脱落膜における酵素活性は陣痛の発来に伴い有意に低下した。今回の結果と,以前に我々が報告した脱落膜でのDAのPG産生刺激作用とを併せて考えると,ヒト脱落膜にはDAレセプター刺激を介したPG産生糸が存在し,陣痛発来機構に関与している可能性が示唆される。
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