研究概要 |
音の入力に対し,蝸牛から中枢に出力される情報は,周波数情報と時間情報があり,語音の認知には時間情報が重要な役割を果たしていることがわかってきた.その観察手段として,一次聴ニューロンの同期的発火である蝸電図のCAPの時間パターンを調べることでヒト蝸牛での時間情報処理をある程度推測できると考え,短母音[a]無声子音[ka],有声子音[ma],[ba],[da]を刺激音とした蝸電図を記録しその時間情報を観察した.そのCAPの特徴は,母音部基本周波数に一致する周期的CAPを認める.(1)[m],[b],[d]開始部のCAPは,弱く,(2)[m]の有声子音部は周期的CAPを認めた.(3)[k],[b],[d]の破裂部で強いCAPを認めた.このように有声子音を刺激音としたCAPの発火パターンはそれぞれ特徴があり.無声子音[k]あるいは短母音[a]とも異なっており,このような時間情報の違いが語音の認知に寄与していると考えられる. 語音の時間情報をより効果的に蝸牛に入力させる手段として不定長時間窓ごとの時間領域における音圧レベル圧縮増幅法(TD-1圧縮増幅)を開発した.本方式による刺激音で内耳性難聴者12例において語音蝸電図のCAPを指標として蝸牛から出力される語音の時間情報を観察した.その結果,[ka]を刺激音とする蛸電図で全例正常耳と異なるCAPの発火パターンを認め,[ka]をTD-1型圧縮増幅した刺激音により,7例で[k]の開始部CAPが認められるようになり,計8例が開始部で正常耳と同じCAPの発火パターンをとり,1例で母音部のCAPの開始時間が改善し,4例で開始部と母音部のCAPが正常耳と同じパターンになり,TD-1型圧縮増幅で語音.特に子音部の時間情報が効率的に蝸牛から出力されることが各観的観察できた.
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