研究概要 |
基礎的研究においては,家兎を用いて2種類の実験的ぶどう膜炎を作成し,それぞれの眼内炎症反応に対する種々の漢方薬の効果を検討した結果,新規の知見を得たのでその内容を下記に示します. (1)角膜上に載せたガラス円筒内にプロスタグランジンE_2(PGE_2)溶液[10μg/ml]の600μlを一定時間だけ接触させる経角膜的な投与によって惹起した実験的ぶどう膜炎に対しては,炎症惹起前に一定期間(1週間)だけ漢方薬を投与して抑制効果を示すか否かを検討した研究では,柴苓湯,葛根湯,黄連解湯をそれぞれ動物の一日の摂取量がヒト臨床における一日量の約10倍となるように飼料に混合して有色家兎に与え,経角膜的なPGE_2投与で惹起された実験的ぶどう膜炎の前房内蛋白質濃度を眼内炎症の指標にして経時的に測定したが,何れも有意な抑制効果は示さなかった。 (2)眼内炎症の惹起法が(1)とは異なる実験系で,有色家兎にlipopolysaccharide(LPS)の全身投与(0.5μg/kg)で惹起した実験的ぶどう膜炎に対しては,炎症惹起前に一定期間(1週間)だけ漢方薬を投与し,この炎症反応に対する抑制効果の有無を調べた結果, (1)葛根湯のヒト臨床投与量の5倍量投与群は非投与群に対して有意な差を示さなかった.(P>0.05,n=10) (2)柴苓湯についてはヒト臨床投与量の10倍量投与群および3倍量投与群は,1倍量投与群ならびに非投与群に対してそれぞれ有意な抑制を示した.(p<0.05,n=10) 2.臨床的研究では基礎的研究で抑制の認められた柴苓湯について検討を行う為に,ヒト臨床における眼内炎症として白内障術後の眼内炎症を対象にし,十分にインフ-ムドコンセントを行った上で了解の得られた患者さんに柴苓湯(TJ-114,ツムラ)投与群と非投与群で比較する検討を進めているが,現在までの所では十分な症例数が得られていないので明確なことは言えないが,柴苓湯投与群でヒトの眼内炎症が抑制される傾向を示している. 今後さらに本研究を展開して行く為に,基礎的研究については自己免疫性ぶどう膜炎モデルを作成し,柴苓湯などの抑制効果を調べると共に,臨床的研究については白内障術後の眼内炎症を対象にした柴苓湯の症例数を追加し,また,葛根湯についても同様な検討を進める必要があると考える.
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